Mathilda's monologue

Kitchen Moviegoreの独り言

母親経験値|マチルダ著 子どもが怪我をさせられたとき

第1章 嵐の予感

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それは1本の電話から始まった。

 

仕事帰りの車のなか、携帯に登録していない番号からの着信に出るかどうか迷いながらも、家に着いてからの流れを考えたら、いまのうちに出ておいたほうがいいと思い3コールほどで出た。

 

電話の相手は、次男の担任の先生からだった。

「いつもお世話になっております。」と、形式的に挨拶を済ませ、なにをやらかしたんだと心中騒ぎ出す。

 

先生は申し訳なさそうに、次男が戦いごっこしていたときに、相手の子がヒートアップして次男が蹴られてしまったということを説明した。

「そうでしたか、すみません。」

この場合のすみませんは、お騒がせしてすみませんの意味である。男の子を育てていると、なぜだか二言目にはすみませんが出てくるのである。

 

まずは自分の子どもがやった方ではないとにホッとして、さらに状況について詳しく聞く。

戦いごっこの後次男が席に座っていると、戦いごっこの相手だった友だちが気持ちがおさまらなくて追いかけてきたという。ちょうどえんぴつを落として拾おうと屈んだ次男の顔を蹴ったというのだ。

顔かぁ…。え?顔?そう思いながらも、理解ある親でいたかったので、冷静を装った。この時間まで電話がこなかったということは、大した怪我でもないんだろうと思った。

「戦いごっこなら、お互い様ですよね。次男も調子に乗ったんでしょう、きっと。」

戦いごっこや喧嘩と聞くと、自分の子どももやったんだろうと思う。

お互い様という言葉は本当にいい言葉だと思う。

でも、この時は冷静じゃなかった。

戦いごっこは終わったあとの話だ。

 

「次男さんにお会いになりましたか?」

 交通事故で運ばれた子どもに会うために、病院に駆けつけた母親に言うセリフだなぁ…穏やかじゃない。

「いいえ、まだ帰れてないので…」

蹴られたところは目の下らしい。

たまたま当たってしまったという言い方に、たまたまっていうのはこうゆうときに使うことばなのか?と思いながらも、帰って怪我を確認すると伝えた。

蹴られてから帰るまでは冷やしてくれていたようだ。

 

家に帰って次男の顔を確認すると目の下は赤くなっていた。頬骨に当たったことがわかる。

本人がいつも通りなので拍子抜けする、と同時になんで言ってこないのかと苛立ってくる。

これだから次男は…良くも悪くも執着がない。

いまはドラゴンボールのカードに夢中で、ほかのことは頭にないようだ。

 

キッチンに立ち夕食の準備をはじめると同時に、さて、どうしようかと考えが巡りはじめた。

目の下を赤くしてる次男を見ていると、気持ちの奥に押し込めていた苛立つ気持ちに気がついた。幸運にも目は無事だったけれど、これが目に当たっていたら…!こんなに冷静ではいられない。

 

自分が逆の立場だったらと想像してみる。自分の子どもが人の子どもの顔を蹴ってしまったら、私はどうするだろうか。

まずは本人にも話を聞き、先生との話と大きく違うようでなければすぐに謝罪をしたいと思うだろう。

 以前、実は長男がハプニングで怪我をさせてしまったことがあった。そのときは本人に話を聞いた後、学校に連絡を入れ謝罪したい旨を伝え、電話番号を教えてもらえないかと頼んだ。学校は先方に確認した後、電話番号を教えてくれた。怪我の状況の確認と、謝罪のために伺って良いかを確認し、菓子折りを持って伺った。

  

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先生から友だちの親にも同じことを伝えることは聞いている。そろそろ電話は済んだだろか。友だち…A君のお母さんは仕事をしており帰りも遅い。まだ先生とコンタクト取ってないかもしれない。

 

 実はA君とは家もわりと近く、入学してから約1年のあいだに何回かトラブルになっていた。正直、またか…と、今まで穏便に済ませるためにと押し込めた気持ちがふつふつと湧いてくる。

いつもやられる側とやる側が同じで、まったくお互い様ではない。

子どもを連れての謝罪があったのは1回だけで、あとは知らんぷり。知らんぷりというのもこちら側の勝手な憶測であって、もしかしたら子どものしたことに頭を抱えてるのかもしれないが、こちらはそんなこと知る余地もないので知らんぷりしてると苛立ちを募らせる。

 

近所ですれ違うこともあるし、DVDのレンタルショップは同じところを利用してる。ちなみに、レンタルショップにはコミックも置いてあり、以前コミックコーナーで鉢合わせになったことがあった。この歳になってコミックを読むということがなんだか気恥ずかったのを覚えている。しかし、コミックを読んでる時間が、忙しい毎日のなかで一瞬でも現実から引き離してくれる時間であり、それはとてもその当時のストレス発散方法だった。きっと同じ気持ちなんだろうなと、同士のようなおなじ戦士のようななんとも言えない親近感と仲間意識が芽生えた。

 

そんなママ友だったから、仲良くしていきたいと思っていた。ご近所だから、うまくやりたいと思っていた。同じワーママとしても、近くに実家はなく頼るところがないという共通点もあり、いざというときはお互い様で頑張っていきたいと思ってた。

 

そんなことを思い出していた。

その間、子どもたちの宿題を見ながら、話しかけられながらだったが、上の空だった。

 

子どもたちに夕食を食べさせながら、次男に話を聞いた。

次男は戦いごっこをしていたのは自分ではないと言っていたが、ほとんどは先生が説明した通りだった。

痛くなかったのかと聞くと、痛かったけどみんながいたから泣くのは我慢したけど我慢できなかったと言った。泣いたのだ。

次男が痛みで泣くのを耐える姿を想像して、怒りがこみ上げてきた。

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しかし、まだまだ話がつたないため全容を把握しきれなかった。誰かその場にいなかったのかと聞くと数人のクラスメイトの名前があがった。

そのなかに、子ども同士の習い事が同じでプライベートでもランチや飲み会をするママ友の子どもB君の名前があった。

迷いはなかった。真実を知りたい。

子どもに飲み物の催促をされるものの、自分でやりなさいと半ギレで応えた。

余裕がなくなってきていた。

 

お疲れさま!

今日さうちの次男とA君が戦いごっこして一悶着あったらしくて、先生から電話かかってきたんけどB君からなにか聞いてないかな?

 

LINEを送ってから、子どもたちの連絡帳のチェックをして、自分も夕食を食べた。

頭が痛い…今日は仕事が忙しかった。

返事が来ていないか、気になって見ている携帯の画面が目にしみる。

 

お風呂が湧いたことを知らせるメロディーで、ハッと現実に戻った。

寝かせる時間が迫っている。

お風呂が終わったら、明日の準備をさせて、歯磨きが終わった人から寝る時間までゲームをしていいことになっている。

ゲームをしている時間はおとなしいので、それまでは一気に片付けてしまいたい。

まずはお風呂だ。

 

化粧を落としてから子どもたちとお風呂に浸かると、こめかみの血管がドックンドックンと脈を打ち、その度に頭痛がする。

どうしよう…お風呂を出たら薬を飲もうか…B君ママからは返事きたかな…

もうA君ママは先生と話したかな…あ!家に来るかもしれない!

冷えた体がまだ温まっていなかったが、ゆっくり入っていられなかった。

子どもたちに競争だと言って急いでお風呂から上がりたかった。

競争だと子どもたちのテンションをあげてしまったせいで、子どもたちの声が大きくなり頭に響き渡る。今日は夫は何時頃に帰って来るだろうかと頭をよぎった。

 

急いでお風呂から出て、バスタオルを体に巻きつけ携帯を取りに行った。

取りに行ったと書いたが、実際は脱衣所に置いておいた。

連絡が来るかもしれないと思って、なるべく近くに置いておいたのだ。

 

携帯を確認する。

A君ママからのLINEの着信が3件とB君ママからのLINEが1件。

全く気がつかなかった。

 

 

 

 

続く